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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1151号 判決

控訴人 乙山花子

右訴訟代理人弁護士 大谷昌彦

中川徹也

控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 田中隆

被控訴人 丙川春夫

右訴訟代理人弁護士 松本信一

主文

控訴人乙山花子の本件控訴を棄却する。

原判決中控訴人甲野太郎の請求に関する部分を次のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人甲野太郎に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和五五年六月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人甲野太郎のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人と控訴人乙山花子との間においては全部同控訴人の負担とし、控訴人甲野太郎と被控訴人との間においては、同控訴人について生じた分を三分してその二を被控訴人の負担とし、その余は各自の負担とする。

この判決は、控訴人甲野太郎勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

控訴人乙山花子訴訟代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴人甲野太郎訴訟代理人は、「原判決中控訴人甲野太郎敗訴の部分を取り消す。被控訴人は同控訴人に対し金三〇〇万円及びこれに対する昭和五五年六月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、各控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は、原判決の事実摘示と同一である(ただし、原判決三枚目裏八行目、一〇行目から一一行目及び一三行目「一、五三九万九、〇〇〇円」をいずれも「一、五三五万九、〇〇〇円」と訂正し、同五枚目裏一〇行目から一一行目「昭和五〇年二月」を「昭和四九年一二月」と改め、同六枚目表一〇行目「請求原因(二)は、」の次に「肉体関係の始った時期の点を除き」を加える。)から、これを引用する。

理由

当裁判所の判断も、被控訴人の控訴人乙山花子に対する請求は理由があるから、これを正当として認容すべきであり、控訴人甲野太郎に対する請求は理由がないから、これを失当として棄却すべきであるとするものである。その理由は、原判決の理由中右各請求に関する説示と同一である(原判決七枚目裏八行目から一〇枚目表三行目まで、ただし、原判決八枚目表六行目及び一一行目「一、五三九万九、〇〇〇円」を「一、五三五万九、〇〇〇円」と訂正する。)から、これを引用する。

控訴人甲野太郎の被控訴人に対する請求について、当裁判所の判断は、次のとおりである。

控訴人甲野と同乙山とは昭和二八年一〇月結婚式を挙げ、昭和三〇年二月一九日に婚姻の届け出をしてその間に二子を儲けていたが、被控訴人が昭和四九年一二月九日ころ控訴人乙山と知り合ってから、同控訴人が夫を有する者であることを知りながらこれと肉体関係をもったことは当事者間に争いがない。

被控訴人は、右の肉体関係について、控訴人乙山が被控訴人に対し「夫とは一〇年前から別居して離婚同然の生活をし、現在離婚の手続をすすめているところであり、将来は被控訴人と結婚してもよい。」と告げたので、被控訴人がこれを信じて同控訴人と結婚の約束をして肉体関係を持つようになったが、被控訴人にはもとより控訴人甲野の夫たる権利を侵害する意思がなかったのであるから、被控訴人と控訴人乙山との右関係につき違法性はない、と主張する。

そこで、《証拠省略》によれば、被控訴人は、控訴人乙山と知り合ってから一週間ほどして二度目に会ったときはやくも同控訴人と肉体関係を持ち、その後昭和五〇年一月初めころ四回目の肉体関係を持った際、同控訴人と結婚の約束を交し、いらい昭和五二年一〇月ころにいたるまで有夫の婦である同控訴人と姦を通じる不義行為を反復継続していたことが認められ、また同控訴人が被控訴人に虚言を弄し、被控訴人がその旨誤信したことは、引用にかかる原判決理由説示のとおりであるが、離婚手続中であるといっても、有夫の婦である厳然たる事実が存在する以上、前叙肉体関係に及んだこと自体有夫の婦との性交行為によってその夫たる者の夫としての権利を侵害することの違法性を十分認識したうえでの不義行為であることにかわりはないというべきであり、しかも同控訴人の出任せの虚言をそのまま鵜呑みにして有夫の婦たる身の同控訴人と肉体関係を重ねたものであることが、《証拠省略》から明らかであるし、《証拠省略》によると、右のような不義行為の継続関係が夫である控訴人甲野の知るところとなっていらい、同控訴人両名の夫婦関係のみならず、その家庭環境全体が破局状態に陥り、協議離婚のやむなきにいたったが、被控訴人においては、癒し難い傷痕を残してしまったことが認められるから、本件不義行為における被控訴人の犯情もまた軽しとしないといわなければならない。そうすると、被控訴人が控訴人乙山との右不義行為によって、当時同控訴人の夫であった控訴人甲野に対して多大の精神的苦痛を与えたこともまた見易い道理であるから、控訴人甲野の右精神的苦痛は二〇〇万円をもって慰謝するのを相当とする。したがって、控訴人甲野の被控訴人に対する請求は慰謝料二〇〇万円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五五年六月七日から支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。

以上の次第で、原判決中被控訴人の請求に関する部分は相当であって、控訴人乙山の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、右説示と趣旨を異にする原判決中控訴人甲野の請求に関する部分を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 真榮田哲 裁判官 木下重康 裁判長裁判官田宮重男は差支えのため署名押印することができない。裁判官 真榮田哲)

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